ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

わかってきちゃった苦しみ

この10年で、急速に発展してきた中国都市部の人々は、時代に乗り遅れまいとマイカーを買い、マンションを買い、時にはステキなレストランで親孝行したり、長期休暇になると揃いの赤い帽子をかぶって団体旅行に余念がありません。また、一部富裕層は、毎日のように高級レストランで外国の味を貪り食って、仕事とかこつけて海外旅行。ブランド品を身につけるのが、当世のステイタスシンボルとなりつつあります。


もちろんまだまだ地方には、今日の食糧や飲み水に飢えている人々も大勢いるのですが、先述の時代に乗る人々には、それなりのストレスがあるようです。


今日も、タクシーに乗ると、運転手さんが、
「日本人はすごいね。なんと言っても、細かい。精密・緻密な精神を持ってる」
といきなり日本賛美を連打し始めました。「そうだろ? 俺ね、日本のテレビ番組が好きでさ、しょっちゅう見てるんだけど、番組の作り方ひとつとっても、精密だよね。そうだろ? 自動車とか、工業製品もそうだけど、なんでもかんでもよく考えて、上手に作ってるよね。そうだろ?」
といちいち「そうだろ?」とはさむ癖のある、おしゃべりなおっちゃん。


「中国は、だめだね。以前から、なんでも“没办法(しょうがない)”“差不多(こんなもんでしょ)”で済ませていたけど、最近じゃあ、“无所谓(どうでもいい)”って放棄しちゃう。それじゃだめだよね。そうだろ? どうでもいいって精神じゃあ、いつまで経っても日本には追いつけないと俺は思ってるよ。そうだろ? なあ、日本人、そうだろ?」


先達て行った海外ブランドのビールを扱うレストランのオーナーは、欧州暮らしが長く、中国にいること自体がストレスなのだと、延々二時間聞かされました。日本人にも昔、「欧米では…」「欧米では…」といちいち引き合いに出すイケスカナイ輩がおりましたが、今、中国に飛び火しています。そのオーナーは、日本のサービス精神に学ぼうと、きめ細かい接客教育に余念がなく、実に研究熱心。相当なお金持ちですが、店に出るときは、ブランド品は一切身につけず、貴金属の類もすべて外し、お客様より一段下から見上げる姿勢に徹しています。その一方で、ヨーロッパの「店と客は対等な関係にある」というスタイルも大好きなようで、「私はヨーロッパ式の方が楽なんですけどね」と言っていました。確かになぁ。グッチもエルメスカルティエも、「あんたにそれは似合わない!」とはっきり言いそうだものね。でも、EUの経済危機で最近はそうも言ってられないのかな。


そのレストラン、内装がとてもシックで、クラシカルな雰囲気がステキだったので、「お金かけてますね。インテリアを見ただけでも姿勢がわかりますよ」と言ったら、始まっちゃいました、自慢話が。「ちょっとアンティークに見える家具を特注しているんですよ。本物のアンティークじゃないけど、5年経っても、10年経っても、変わらないっていうのが大事。でも、中国人でそれを理解できる人は少ないの。早くあっちに“帰りたい”って思っちゃう」。


正直言うと、この手の話はイラッとします。私とあなたをいっしょにするな、と思っちゃうんですよね。私は決して中国に世直しのために来ているわけではないけれど、中国人が中国人を批判することには大きな抵抗があります。何かと言うと「愛国心」という言葉を持ち出すくせに、そう言っている彼ら自身が、完全に中国を見放しているというところが、嫌なのです。今日のタクシードライバーの彼も然り。「そうだろ?」は単に彼の口癖なのかもしれませんが、日本人の私に対して「そうだろ?」と何度も念を押すのは、自分と普通の中国人は違う、ということを強調したいからなのではないか、と勘ぐってしまうのです。


先進国に追いつきたい中央政府と、先進国に憧れ中国に愛想をつかす国民達。それを憂い、今日もイラッとする日本人。政府も国民も、そして私も、どうしたらいいのか、わからなくなっているようですね。