ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

人前で鼻をほじる、道で歌を歌う、地下鉄でみかんを食べる

昨日のエントリーでは、臆面もなく人をじっと見つめる中国人の心理について考えてみましたが、今日は、見られる側の人の心理を考えてみようかなと思います。


一般的に、中国の人は、「自分は自分、他人は他人」とはっきり線引きをしている人が多いので、正直に言えば、人様のやっていることにあまり興味を示しません。逆に言えば、一人ひとりが勝手なことをやっているわけです。たとえば、会議中や仕事中に鼻をほじる行為。これは、日本人の感覚からするとちょっといただけないはしたない行為ですが、中国人は平気です。「だって、鼻くそが詰まっていたら、息が苦しいだろう?」という最もな理由をぶつけてきます。人前で鼻をほじるのが、恥ずかしい行為だという定義が全くありません。また、ご機嫌に道を歩いている人が、突然歌を歌いだすこともよくあります。道ならまだ分かりますが、二人しか乗っていないエレベーターの中で、一人が突然歌を歌いだすという、考えられないシチュエーションにも出くわします。タクシーの運転手が大声で歌を歌いながら運転するなんてのは日常茶飯事です。また、地下鉄のベンチや車内で、みかんだのお粥だの肉まんだのから揚げだの、普通それは家で食べるものじゃないの?というようなものを、平然と食べます。


私たち日本人は、こういう人たちを見つけると、びっくりして目が釘付けになります。なんとなく物陰に隠れるようにして観察しているとき、本人と目が合ってしまったりした場合、目をそらすのは、実は私たちのほうで、ご本人は見られていることすら全く意に介していません。


ここに一つ問題となるのは、「他人の迷惑を考える余裕」ということです。鼻をほったその指は、その後、どう始末するのだろう、と私はいつも思うのですが、なんだかうやむやな処理の仕方をしています。どこかに飛ばしたり、擦り付けたりしているのでしょうか。歌もそうです。あなたの美声は他人には騒音、という認識は全くありません。歌いたいから歌う、ただそれだけなのです。


昔の職場の上司に、「中国の人って所構わず鼻歌を歌いますよね。恥ずかしくはないんですか? 日本では考えられないことなので、ちょっとお聞きしたくて」とたずねたら、その上司はちょっとむっとした表情で、「歌も自由に歌えないなんて、日本は窮屈な国だな」と嫌味を言われました。


昨日のエントリーでは、じっと見つめる人がいることがさも特別なことのように書きましたが、実はこの国では、じっと見つめるという行為も、見つめられるという行為も、お互い全く気にしていないわけです。「見たきゃ見ればいい、何か問題があるか?」ということなのです。


ところが、この価値観、都市部ではちょっと変わってきました。電車で新聞を読んでいる人の隣りで、新聞を覗き込む行為が嫌われ始めています。以前は、人の読んでいる新聞を覗こうと、なんら問題なかったのですが、「自分で買って読め! これは私の新聞だ!」と主張する人が出始めています。せちがらいですなぁ〜。確かに、自分の読んでいるものを覗かれるのは、あまり気分のいいものではありませんよね。なんだか読んでいても落ち着きませんし、「なんて図々しい人なんだ」と思ったりします。でも、これって、日本人の感覚とちょっと違うような気がするんです。昔は街の中に街頭新聞が張られていて、それをみんな立ったまま読んでいたりしたので、新聞にお金を払うのが惜しいと思う人も結構いるんです。ところが時代が変わったので、新聞は自分で買うものという新しい価値観ができた。それについて来られない人へのある種のいじめのような気がするのです。「新聞買う金もないのか!」と言いたいのかもしれません。


さて、ちょっと話はずれますが、中国の方々は新しい洋服を買うと、なぜか1週間くらいはその服を着て出勤してきます。うれしくて毎日着たいのでしょうし、みんなに見てもらいたいのでしょうし、心情的には理解できますが、日本では考えられないことですね。私は職場の同僚が新しい服を着てくると、「まあ、新しい洋服? 似合ってるじゃない? いいわね」と声をかけたりするのですが、翌日もそのまた翌日も…と毎日着てこられると、非常にばつの悪い思いをします。要は本人はもっと褒めてほしいわけです。それで、日本でこんなこと言ったら、絶対に嫌味に受け取られてしまうのですが、「今日もその服、よく似合ってるね」と声をかけます。すると中国人は、「でしょう〜?」とニッコニコです。自己満足と他人の賞賛を浴びたいがために、1週間おニューを着倒す、これは「見られたいビーム」にほかなりません。


ほかにも、イヤホンから大音量の音楽が漏れている人、あるいはイヤホンさえ抜いてしまって、人前で自分の好きな音楽を大公開している人、こういう人も「注目を浴びたいビーム」の人です。たいてい、垢抜けないお兄ちゃんお姉ちゃんと相場が決まっていて、ちょっと進んだ若者は、小ばかにしているようですが、なかなか減らない「ビーム」の一つです。こういう人には、「うるさいので静かにしていただけませんか?」というのが正解のようです。割と黙って、音量を落とすようです。私は職場の中では、ときどき注意しますが、公衆の面前では怖くてできません。


日本人と中国人、顔が同じなので、私たちの常識とかけ離れた行動をされると、本当にびっくりするし、こちらが赤面してしまうようなこともありますが、まあ海を隔てたこんな馬鹿でかい国ですから、いちいち驚いていては、身が持ちませんね。慣れるしか道はなさそうです。