ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

うつ病を理解できない人たち

私は周囲の人たちに、自分がうつ病を患っていることを公言しています。それは、仕事上で多くの方々にお会いすることが多いので、単なる体調不良と伝えておくと、「何の病気?」と必ず聞き返されるからです。嘘やごまかしは嫌いなので、「実は、うつ病を発症してしまいまして…」と言うと、たいていの方は、それ以上、深く聞こうとしないし、「ゆっくり休んで!」「散歩でもして体動かしたらいいよ」など、知っている限りの知識で私を慰めてくださいます。


また、中には、「自分もうつ病経験してるんですよ」と告白してくださる方もあります。同病相哀れむで、うつ病の闘病のしんどさを一通り話し、どうやって克服していったかなどの話をお聞きして、割と元気にさせてもらえます。


中国人にもうつ病患者は大勢います。急速に経済発展を遂げてきているので、生活のリズムに疲れてしまったり、大きな投資に失敗して精神的に打撃を受けたり、商売に失敗して一家離散になってしまったり、そんな人が多いように思います。彼らは、人に隠れて精神科に通っています。中国ではうつ病はまだまだ差別の対象になる病で、「気ちがい」「精神病」と陰口をたたかれるのです。だから、たいていの人は病院にかからず、うつを繰り返しています。しかし、傍からみても「ちょっとおかしい」と気づかれるほどの症状になってくると、家族なり同僚なりが心配して、病院へ行くように勧めます。本人もうすうす「うつ病じゃないか」と疑ってはいるものの、実際に医師から「あなたはうつ病に罹っています」と宣告されると、そのことがかえってストレスになってしまって、回復を遅らせてしまうことがあるそうなのです。だから、割と、中国のお医者さんは「うつ病」という病名を患者に伝えない場合もあると聞きました。


負け惜しみではないですが、私はうつ病になって良かったと思っています。確かに周りの人たちにずいぶん迷惑をかけているし、仕事を休んだことで懐具合も良くないし、療養中のあの地獄の苦しみを思い出すと胸がぎゅーっと締め付けられるくらい切ない思いがこみ上げてきます。でも、それらすべてのことが、人に対する思いやりに変化していったり、自分自身をよりシンプルにしていくことに役立っているように思うのです。うつ病を経験しそれを乗り越えてきた人というのは、やはりちょっと他の人とは違う観点で物事を見ています。自分らしさを大切にしようとしなければうつ病は克服できない病です。だからこそ、自分の周りにいる人たちに対しても、「その人らしさ」を尊重していきたい、と思うのでしょう。懐の大きい、やさしい芯を感じます。


ところが、日本人にも「うつ病」に対する偏見を持っている人は実に多くあって、もうこういう人たちとは何時間話し合っても平行線です。うつ病を精神論で克服させようとしたり、そもそもうつ病なんて病気は存在しないのだ、とまで言い切る人がいます。これは、結局、医学を甘く見ている証拠です。聞きかじりの知識だけを振りかざし、精神論をぶつけてこられても、まるで見当違いなのに、「持論の正しさ」ばかりを主張してきます。中国人の偏見意識とは全く違います。彼らの偏見は、医学に対する無知から始まっています。抑うつ状態に陥ってしまった人への恐怖心から来る偏見ですから、やさしく医学的な説明をすれば、皆、うつ病患者に協力的な姿勢を見せてくれるのです。


私はこの数ヶ月間、ガッツンガッツンの精神論を押し付けてくる日本人に何度もアッパーカットを食らいました。「人として最低だ」「うつ病を盾に楽をしようとするなんて、社会人失格だ」「部下を持つ人間として認められない」などなど、言いたいことを言われてきました。


でも、なんだか最近、「まあ、そう思う人もあるよなぁ」とちょっと悟りの境地に入ってきました。今までの自分なら、釈明しようと目を吊り上げて議論したり、あるいは逃げるが勝ちと、その人から遠ざかるようなことをしてきたと思うのですが、そういう行動や考え方がそもそも私のうつ病の根源にあるのかもしれないと思うようになったのです。人間、まーるくまーるく生きていくのが勝ちです。何も分かっていない人とつまらない議論を重ねても、そこに勝敗は存在しません。まして、うつ病を理解したくない人に、うつ病の医学的説明をしたところで、少しも喜びはしないのです。「この人は、私がうつ病になったことを怒っている。うつ病になったのは自分なのだから、私が悪いことにちがいはないけれど、私がうつ病になったことで、この人は、優越感を味わうことができた。まあ、それでいいじゃないか」という具合です。優越感を一通り味わうと、人というのは、不思議と平静を取り戻します。そして最後に、「あんまり神経質にならないで、なんとかなる、なせばなる、と思っていたほうがいいよ」などと捨て台詞を吐いて、去っていきます。私は終始ニコニコしながら、その人の話を聞いていたのですが、それをそばで聞いていた私の部下が、「あの人のほうが余程神経質じゃない!人の病気のことをグチグチ細かくけなして、目を吊り上げて。どっちが病人か分からないですよ、これじゃあ」とみごとなオチをつけてくれました。


もしかすると、私、まーるいやさしいおばあちゃんになれるかもしれないなぁ、と今から老後が楽しみです。うつ病に感謝!