ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

自己主張


事例その1
ある日系企業総経理(いわば代表取締役)さんが、先達て、
「yueyaさん、この履歴書見てくださいよ」
と彼の会社の社員募集で送られてきた履歴書を見せてくれました。


見ると、本人写真がモノスゴイのです。まず、びっくりしたのは、ヒラヒラのドレス。しかも真っ赤。髪型は『エースをねらえ!』のお蝶夫人。胸に愛犬を抱き、メイクは本人確認が難しいほどのお水系メイク。


「な・なんで、こんなモノスゴイことになっちゃったんでしょう? 彼女」
「ウチが、衣料品メーカーなんで、ファッション性をアピールしたかったんでしょうね。笑うしかないでしょ、これ。それから、自己紹介文、ちょっと読んでみてくださいよ」


以下、今、思い出せる限りで内容を訳しておきます。


私の性格は明るく爽やかで、どんな物事に対しても積極的に行動します。考え方は論理的であり、複雑な事柄もすぐに理解し、それを人に分かり易く説明できます。また、協調性がありどんな苦労も厭いません。創造力が高く、新しいことに対する順応性も高く、勉強熱心です。忍耐強さもあるので、一つのことを深く広く追求します。責任感が強いので、リーダーの資質を備えています。また他人に対しては誠実でまごころを込めて接することができます。


「これだけ並べ立てられると、さすがに引きますよね。yueyaさん、どう思いますか?」
日系企業の求める人物像をよく調べてあるというのが、率直な感想ですね。学校で就職指導で言われているんでしょう」
「ははは…、そうなんでしょうね。ここまで徹底的に良いことばかり書いてくる人も珍しいですが、ほかの応募者もおおむねこんな調子なんですよね。なんだか、日系企業を見透かされているというか…」
「でもこんなに自己PRしている割には、志望動機が書いてないですね」
「そうなんです。きっとどの会社にも同じ履歴書を送っているんだと思います」


「で、どうするんですか? 彼女。面接するんですか?」
「一応、会うだけ会ってみて…」
「論破する?」
「いや、そんな意地悪しませんよ。ホントにこんな人材がいるんなら会ってみたいじゃないですか」
「おやさしいですね〜。たぶん、利発だけれど、大嘘つきな女の子が来ますよ」
「やめてくださいよ。ウチも切羽詰ってるんですから(苦笑)」


事例その2
とある居酒屋さんの女性オーナーとお話しました。5年以上日本で生活したことのある彼女は、OLを辞め、自分で日本風の居酒屋をオープンしたのです。


「このお店のおすすめ料理は何ですか?」
「特にないんですよ。いろいろ手作りでやっていますが、おいしいかどうかはお客さんの好みにも影響されますし、私が決めることじゃないと思っているんで」
「なるほど。でも料理長の得意料理ってあるでしょう?」
「そういう自慢めいたことを言うのは嫌いなんです。どこのお店も、あれがおいしいとか、これがおいしいとか、オーナーや店長がすすめるのって、品がないと思っているんで」
「そうですか、それは失礼しました。じゃあ先ほどおっしゃっていた、手作りの料理の中からいくつか注文したいんですが、どれが手作りですか」
「挽肉の料理はだいたい手作りですね。それから、チーズちくわとか…」
「チーズちくわ?」
「ちくわの中にチーズを差し込んだおつまみです。ご存じないですか?」
「わかります。ちくわも手作りなんですか?」
「いえ、ちくわは手作りじゃないんですが、チーズはウチで入れてます。よその店だと、既製品のチーズちくわを使っていたりするじゃないですか」
「ああ、そうなんですか…」


「お店のインテリア、ステキですね。オーナーさんがご自身で考えられたんですか?」
「そうなんですよ。よその店は、日本料理を出していても、インテリアが偽の日本みたいで、そういう店にはしたくなかったんです」
「こういう店が夢だったんですね」
「夢というか、もう自分でやるならこういう店だ、という明確なイメージがあったので…」
「食器もすてきですね」
「でも、インテリアや食器がステキでも、従業員のサービスが悪ければダメですから、ウチは厳しく教育しますよ。例えば、うんぬん……(延々自慢ばなしが続く)」


確かに素晴らしい教育論だったし、お客様が味の評価をするべきだとか、既製品を使わないとか、どれも間違ったことは何一つ言っていないのですが、なんだかこのオーナー面倒くさいや、と思ったんです。


要は、いかに自分がすばらしい人物であるか、ということを言いたいだけなんですね。他店を批判し、自分の価値を高く見せるやり方は、どうも好きになれません。お味の方は、あれこれ反論していた割に、今ひとつで、出勤してきた従業員は、オーナーが「おはようござます」と言っても、返事一つしませんでした。


私は、中国人の自己主張の強さを否定するスタンスではありません。日本人もこのくらい自己主張しないと、国際社会の中で損な役回りを演じるハメに陥るのではないか、と危惧さえしています。でも、中国のみなさん、自己主張は義務を遂行してこそ生きてくるものだと思いますよ。