ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

老舗の余裕

この街で暮らすようになって何年にもなりますが、知らないことってまだまだいっぱいあるものだなぁ、という出来事がありました。


今日、ある伝統工芸品を扱う有名店へ行きました。その店の数軒先にも同じ名前の店があって、私はその二軒は同じ経営のお店の「高級品専門店舗」と「一般向き価格品専門店舗」なのだと長年信じていました。


今日は、ちょっとした時間調整の暇つぶしだったので、高級店の方へ入ったのですが、そこで驚くべき事実を知りました。


「この先にあるお店にも高い商品は置いてあるんですか?」と私。


「お客様、店の名前は同じなんですが、あちら様は当店とは関係のないお店なんですよ」と店員さん。


「いんちきってことですか?」
「いえ、当店の元職人が独立して始めた店で…」
「ということは、系列店?」
「いやぁ、なんと言うか、まあ、全く関係がない店でして…」
「え! それじゃあ、あちらが店の名前を勝手に使っているわけですか?!」
「言ってみればそういうことになりますが…」
「なんで訴えないんです?!!!(私の方が興奮)」
「ははは…、まあね、当店の店名は、この工芸品全体の代名詞のように言われていますから、いちいち訴えているときりがないんですよ、実際」


よく聞いてみると、同店の名前を拝借した店が、この街はもとより中国各地にあるそうで、いずれも全く関係のない店なのだとか。看板に使われている文字なんかも、そっくりそのまま拝借しちゃっていたりするし、よくもまあイケシャアシャアと店を出せるものだとビックリです。


ステープラーよりホッチキス、セロハンテープよりもセロテープ、みたいなもので、商品名がそのままそのもの自体の代名詞になってしまうことってよくありますよね。なんかそんなノリなのです。

「悔しくないですか? バカバカ売れてますよ、あちらさん」
「そうみたいですね〜。結構なことじゃないですか」
「お客様一杯入ってましたよ」
「はあ、うらやましいですね〜ニコニコ
「お客さん取られちゃいますよ」
「いえ、大丈夫ですよ。ウチの商品は、コレクターズアイテムで、6代目店主の手作りのものでなければ価値がない、っていうお客様が買いにいらっしゃる店なんで、客層が全然違いますから」


そうこうしている内に、その噂の6代目店主が店に現れた。テレビ局の取材を受けていた。いい男でビックリした。おだやかな表情で、仏を信仰しているだけあって、落ち着いている人だ。本人に会えたので、うれしくて、彼の作品の前でいっしょに並んで写真を撮らせてもらいました。


すると先ほどの店員がやってきて、
「お客様が6代目の作品をお買い上げになると、ここに6代目の作品であるという落款が押されるんです。その上で鑑定書にも、6代目のサインが直筆で入るんですよ」
と教えてくださいました。


「あちらのお店は、どうやって売ってるんでしょうか」
「いや、普通に、お客様が気に入ったものを紙に包んで箱にいれておしまいですよ。」
「作者のサインとか落款とかは?」
「大量生産ですから、作者のサインも落款も入れようがないでしょう」


う〜ん、そうだったのか〜。この6代目のあんちゃんが、たまには安売り店の方に指導にいって、そこそこの普及版づくりを教えているのかと思っていました。


それにしても老舗って、大したものですね。このくらいマネされてもびくともしない。私なんかちょっとパクられると、周囲を巻き込んで大騒ぎするのに、老舗ってエライね〜。本物って、動じないものなのね〜。金持ち喧嘩せずとはよく言ったものだ。