ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

オープン確率

私が住んでいる街は、中国北方のそこそこ大きな都市なのですが、この数年の発展はめざましく、日進月歩で便利になっています。市中心部にある繁華街などは、1ヶ月ほどご無沙汰すると、すっかりさまがわりしているので、住み慣れた街とは言え、時々迷子になります。


さまがわりする、と一言で片付けてしまうと華やかな一面だけしか捉えられませんが、逆に言えば、元々そこに存在していたものが失われているという一面が潜んでいます。中国の土地は基本的に私有財産ではありません。すべて国の所有で、個人は国から土地を「お預かりしている」わけです。ですから、国から「出て行け!」と言われたら、即刻退去しなければならないという、日本人からみたら何とも理不尽な決まりがあります。もちろん転居に当たっての保障はありますが、通常、都市開発の対象になるエリアは、将来性たっぷりの場所なので、長年住み慣れた人々やそこで商売をし繁盛している人々にとっては、多少の保障では済まないというのが実状。居座りを決め込む人も中にはあって、廃墟となった建物に、たった一軒だけヒラヒラと洗濯物が干してある光景をたびたび目にします。


しかし、いくら粘っても多勢に無勢では勝ち目は無く、最終的には手段を選ばぬ形式的な和解を押し付けられ(権力が幅を利かせている国ですから)、「こんなことになるなら、もっと早く合意しておけばよかった」という位のスズメの涙を貰って、転居するハメに陥ります。「儲かりまっか?」という大阪弁同様、中国人はいくら儲けたかということが自慢のタネになる習慣があるので、どこまで粘るか、というのが1つの駆け引きとなっていて、ある種の博打の様相です。


さて、いつもの通り、前置きが長くなりましたが、そろそろ本題へ。


こうやって回収した土地は、新たな開発対象となり、あっけなく上物が取り壊され、一気に全面建設体制へと突入していきます。地震の少ない土地柄から、基礎工事など嘘のように簡単に終了し、連日ミキサー車や大型ダンプが敷地を出入し始めます。例えば、新しいショッピングビルを建設しようとか、マンションを建設しようとか言う話だと、入居テナント募集、マンションオーナー募集の広告が一斉に打たれます。バブル経済の最中(若干右肩下がりではありますが)のことですから、すぐに応募者が集まり、取り引きが行われます。まだ完成していないビルの所有権ですから、とても怖いのですが、投資は一般の主婦にまで浸透しているため、この数年前までは坪単価はうなぎのぼりでした。


ビルの建設自体は、途中で利権がらみのトラブルなどが発生しなければ、あっという間に終了します。なぜなら、売却された個人所有の部分については、内装工事は個人が行うためです。つまりコンクリート打ち放しの状態で引き渡されるわけです。


マンションの場合は、部屋を購入した人が設計士やインテリアデザイナーなどと相談しながら内装を考え、自分で内装資材を購入し、工事業者に委託して内装を整えます。それが完成すると、自ら家具を買い揃え、すぐに生活がスタートできる状態にして借り手を探すのが普通です。ローン返済があるため、一刻もはやく借り手がつかないと首が回らなくなります。


テナントの場合は、更に厄介です。例えば、レストランとして契約すると、設備工事やら内装工事やらの面倒のほかに、衛生局の営業許可を受けなければ営業ができません。賄賂の横行するお国柄、この交渉に失敗すると永久に営業許可が下りない、などという不幸に見舞われますから、皆必死です。


発展途上にある国にありがちなことですが、設備工事は非常にずさんで、水漏れはまず覚悟しておかねばならない難関の1つ。注文どおりの資材が入らず内装をやり直したり、図面どおりに出来上がっていなくて間仕切り壁にドアがぶつかるだの、特注で作ったステキなテーブルがドアの開口部の大きさよりもでか過ぎて部屋に入れられず、せっかく完成したドアをもう一度壊すことになったり、んもう大変なのです。


日本人は、「○月○日 午前○時 オープン!」などと一度広告を打ったら、命がけでオープンさせますが、中国にはその常識はありません。オープンできないかもしれないのなら、広告なんか出さなきゃいいのに、儲け第一主義なので広告だけはちゃっかり出します。お客はそれを真に受けて、オープン当日出掛けて行くのですが、まだ工事中、なんてことがよくあります。本当によくあるんです。というか、あって当たり前なんですね。だから、「だまされた!」なんて言う人は一人もいません。


私は今日、お友達といっしょに、年末にオープンした「小龍包」のお店に行ってみようと、寒風吹きすさぶ中、がんばって出かけていきました。…で、案の定、まだ工事中。すでにオープン予定日を50日ほど超過しています。同じフロアのほかの店は全部開店していましたが、その店だけまだゴタゴタしているようでした。しかし、塗料の臭いがプンプンと漂うレストランフロアって、他店にはエライ迷惑ですね。もうちょっとどうにかならないものか、と毎度毎度思います。