ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

10時に待ち合わせはしない

中国語で人と待ち合わせの約束をするのは、それほど難しいことではない。片言の中国語でも、時間と場所さえ伝えられれば、ほぼ間違いなく会える。ただし、時間に厳格な日本人は、律儀に定刻にやってくるが、中国人は遅刻する。それさえ心得ていれば、100%約束は達成される。


ところが、私の場合、もう何年も中国で暮らしているくせに、何度も待ち合わせに失敗している。今日も失敗した。中国語の「10時」と「11時」がうまく発音できないせいだ。


10時は、10点と書いて、shi2 dian3 と発音する。
11時は、11点と書いて、shi2yi1 dian3 と発音。


私の「10点」は、どうしても「11点」に聞こえるらしい。10時に待ち合わせをすると、11時に相手はやってくる。最初は、中国人は時間に厳格でないからだ、と思っていたのだが、原因は私の発音にあったのだ。


さすがに「時間も正確に伝えられない」となると、社会人として問題なので、中国人の友達に「10点」の言い方を特訓してもらった。「10 shi2」と「11 shi2yi1」には何の問題もない。しかし、これに「点」がつくと、とたんに「10」が「11」になってしまう。「10」と言いおわった後、「点」の発音に移行するときの舌の動きに注目すると、「sh」で一旦上あごに持ち上がった舌が、「i」の発音の瞬間に上あごからほんの少しだけ離れる。そして、「点」の「d」を発音するために、もう一度上あごを打ちつけ、「di」という音として発せられる時には、上あごから離れる。そして、最後の「n」でもう一度上あごに帰ってくる。「10点」という発音は、非常に繊細な舌の動きを要求される発音であることが分かる。


なぜ「10」と「点」の間に「yi」の音が入ってしまうかをじっくり考えてみたところ、どうやら発音そのものの問題ではなく、「10」が第2声の声調であることが原因となっているようだ。日本人は第2声の、一気に上昇させるアクセントが苦手である。学生の頃から私もよく注意されていたので、意識的に上昇させるクセをつけた。これが敗因だ。力が入りすぎて、「shi」の「i」が強すぎるのだ。というより、長いのである。単独で「10」というときは、ネイティブにも合格点がもらえる発音ができるのだが、「点」が続くと、だめになる。つまり、「10」の後に何か言葉が続くときは、「i」の長さが通常より短くならなければいけないのだ。それが、できない。


中国人は、長音や促音が苦手である。ビックマックが、ビクマクになる。そのくせパスポートが、パースポットになったりする。相当意識しないと長音と促音が表せないので、日本語教師は手拍子でカウントを取りながら、「ビ●ッ●ク●マ●ッ●ク●」と6拍で練習させる。ところがNHKのアナウンサーの標準的促音の拍数は、0.7拍だという話を聞いたことがある。1拍にわずか0.3拍満たない0.7拍を、意識的に再現するのは、中国人には難しいだろう。


私の「10時」がまさにそれだ。何度も繰り返し練習すると、100回に10回くらいは偶然言えたりする。耳では聞き分けられるのだが、実際に言おうとするとリズムに乗れない。当分、10時の待ち合わせはしないほうが良さそうだ。