ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

人民大会堂式突貫工事を日本人にやらせたら、どうなるか?

中国全国人民代表代表大会が行われる、北京の「人民大会堂」。我々日本人が北京観光ツアーに参加すると、天安門広場とワンセットで見学するところですね。中華人民共和国建国10周年を記念して建設された、北京十大建築*1の一つだそうです。これが実は、なんと、1958年から59年にかけてのわずか10ヶ月間で、建築してしまったというから驚きです。しかも、ボランティアの力で造ったというのだから、さらにビックリ!


もちろん、それだけの突貫工事であれだけ立派なものを造ってしまったわけですから、建築後に、設備工事の不備や内装工事の欠陥が出てきて、かなり改修工事が行われていると聞いています。


中国のすごいところは、トップダウンで「やれ!」と言われたら、命がけでやり遂げてしまうところ。2008年の北京オリンピックも、準備の遅れでかなり冷や冷やしましたが、結局、あの大掛かりな開会式しかり、とりあえずド派手なものをつくり上げてしまいました。クオリティの良し悪しは二の次でいいから、人々の度肝を抜くようなことをやれと言ったら、おそらく中国が世界一でしょう。そういう底力を持っています。


その分あとになって、当然、なんらかのツケが回ってくるわけです。中国品質のものは粗悪品とよく言われますが、そんなこと中国人本人が承知しています。品質なんてハナから考えていないんですから。だから、後々なにか支障が起きても、それは当たり前。壊れたら直せばいい、と考えるわけです。あらゆる最悪のケースを想定して、防止し、対策を講じ、保険をかけ、実に計画的に事を進めようとする日本人とは全く対照的と言わざるを得ません。私は日本人ですから、当然、日本式のやり方の方が安心できるのですが、どうも最近、この中国式のやり方も、やりようによっては、合理的なんじゃないか、と思ったりすることがよくあります。


「取り越し苦労に終わればいいが……」という表現を日本人はしばしば使いますが、起こってもいない問題について、頭を痛め労力を費やすより、「当たって砕けたら、直せばいいじゃん」というケースも、実は日常たくさん転がっているわけです。なにもかも、「当たって砕けろ」じゃあ、大馬鹿者ですが、時と場合によっては、そのほうが実は賢かったりするわけですね。


さて、今日、会社の中国人上司から、とても無茶な命令が下りました。おそらく日本人なら、最低1年、普通なら3年、最高品質のものを目指すなら10年の準備期間を設けるであろう大掛かりな仕事を、なんと、「2月末までに完成しろ!」とのたまうのです。もちろん2010年2月末日のことです。あまりに桁外れな納期に、日本人スタッフ一同、反論する余地もなく、口をぽっかり開けて上司の話をただただ黙って聞いていました。


この上司も、もちろん本来そのくらいの準備期間が必要なことくらい分かっています。でも、どうしてもやらなきゃならない事情があるのだ、と話を続けました。そして、
「品質はこの際、どうでも良いのです。問題点は出来上がってから修正すれば良いと考えています。責任は私が負います。ですから、何が何でも、2月末までにやってください!」
とはっきりとした口調で言い切りました。


「すごい!面白い!やってやろうじゃないの!」
と私は、思いました。この中国人上司をかっこいいと思ったし、この上司が驚くくらいの完成度を見せ付けてこそ、日本人の本領発揮じゃないか、とも思いました。中国人スタッフにはまねの出来ない、本物のMADE IN JAPANの底力を見せてやろう、と考えました。ところが、周囲の日本人スタッフの反応は、意外なほど冷え切っていました。


「アホか!」とつぶやいた日本人スタッフもいました。「あ〜ぁ、そんなの絶対無理だよ」と投げやりになったスタッフもいました。「こうなったら、やるしかないんでしょう?」と渋々聞いていたスタッフもいました。


日本人、疲れているんですね。リーマンショック以来の経済不況で、祖国はエライ状況になっています。中国に赴任してからも、日々精神的な抑圧に遭い、自由に事が運べないという文化の違いに苦しみ、自主性を削がれ、周囲との協調に心身ともに疲労困憊。擦り切れた日本人からは、もうため息しか出ません。


中国は今、高度経済成長期の最終局面に立っています。今後10年は、この高速成長の波に乗って、経済発展を進めていけるでしょう。しかし、おそらく10年後には、確実にスピードダウンの時期が訪れ、徐々にGDPも下がっていくはずです。先進国は、年2〜3%でも企業は利益を上げられますが、中国は、6%を割ると利益が生み出せないと言われています。6%を割った時点で、中国が持ちこたえられるようにするには、品質を向上させるしか手段がありません。これまで「いけいけ、GOGO!」で猪突猛進してきた中国は、相変わらず品質については自信がないので、これから10年でどうにかして、利益を生み出せる品質を習得していかなければいけないのです。


それを考えると、私は先述のとおり、
「今こそ、日本人の出番だ!」
とやる気まんまんになるのですが、ウチの日本人スタッフは、
「そんなのには付き合いきれん!」
と考えてしまうんですね。


気持ちはわかるけどね、同胞よ。でもね、あんたら、何のために中国来てんのサ? この国で商売やるなら、この国の発展に貢献してこそ、利益が生み出せるんじゃないんですか?! 


人民大会堂式突貫工事を日本人にやらせると、ここまでスゴイというところを、一発、見せてやろうじゃないですか? きっと中国人は、「さすが、日本人!どうやったのか教えてください!」って言うよ。

*1:北京十大建築:人民大会堂、中国国家博物館、中国人民革命軍事博物館、北京駅、北京工人体育場、全国農業展覧館、民族文化宮、釣魚台国賓館、民族飯店、架橋大廈