ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

最初がまちがっているという不幸

行きつけのレストランのアルバイトの中国人の女の子。大学の日本語科の学生(どうやら本科ではなさそう)なのだが、どうもあまり日本語がうまくない。


レストランのオーナーも、彼女のあまりの下手っぷりにあきれて、
「この子、どんくさいから。ちっとも上達しない」
と大笑いしているくらい、ど下手くそなのだ。


ところが、最近新しく入ったバイトの同年代の男の子が、そこそこ上手な日本語を話すのに刺激され、急にやる気になったと見える。


このところ私が食べに行くと、必ず彼女がメモ用紙片手に、
「先生、教えてください」
と近寄ってくる。今日の質問は、なんと、
“用日語怎[ノム]説?(日本語で何と言いますか)?”
を日本語で何と言うか。


おいおい、そういうレベルですか?
と思ったが、そこは彼女のやる気をつぶしてはならないわけで、私は、彼女に教えた。


彼女が「にほんご」という時の「ほん」の発音は、明らかに中国語の“hong”と同じだった。またアクセントも、「日本」という時のアクセントに「語」をくっつけているので、_ ̄__と、「ほ」にアクセントがくる。さらには、「ほん」の発音が中国語の“hong”になっている影響で、「ほん」と「ご」の間に、微妙な間がある。聞いていて気持ちが悪い。


フレーズ自体は、簡単なので、2〜3回オウム返しでリピートさせたら覚えてくれたが、こんな気持ち悪い発音をする彼女を放っておくのは、私のプライドが許さない。


「“hong”は、だめです! ほん!」
「???」
違いが分からないらしい。


「軽松!軽松!(リラックス!リラックス!)ほん!」
「ほん!」
「ほら、できた!」


彼女は学校で、あいうえおを習ったとき、口をはっきり開けるように教えられている。これはこれで、必要なことだが、口の開け方を中国人教師から教わってしまったので、「お」の発音が全部、中国語の“o”になってしまったのだ。


「それからね、あなたの言う、ありがとうございます も問題がありますね」
「ありがどございます」


「と」が「ど」になる。長音の「う」が消える。これは中国人にありがちな癖である。


「う」が消えるのは、ちょっと意識して発音すれば、すぐに矯正できる。しかし、問題は、「と」と「ど」。彼女たち中国人の多くは、「と」と「ど」の区別がつかない。「か」と「が」も同じ。「蚊が飛んでいる」のか、「蛾が飛んでいる」のか、中国人には分かりづらいという笑い話もあるほどだ。


こちらが反則技で、有気音の「と」で「ありがとう」と発音してやると、「と」だと認識できる。私も彼女にまず、この反則技で「ありがとう」と言ってみた。すると今度は、「と」ばかりに力が入って、極端に不自然になる。


「軽松!軽松!ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ほら、できた!」


そばにいた、別の日本人のお客さんが、
「へえ、口の開け方で、ぜんぜん変わるもんだね。今の発音は、日本人の発音と同じだったよ」
と言った。彼女は、真っ赤になった。でも、ホントにきれいな発音だった。


どんなことでも言えることだが、最初に仕込まれたことが間違っているというのは、本当に不幸なことだ。彼女は大学に1年も通っていたのに、今日、初めて、「力を入れすぎだったんだ」と気づいたらしい。喜んでいる一方で、「はぁ〜」とため息をついていた。気持ちは分かる。これから直さなきゃいけない発音が、てんこ盛りだ!