ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

口先だけの優等生

ある日系の大手企業のお偉いさんから、
「ちょっと会ってもらって、品定めして欲しい中国人がいる」
と変な依頼を受けた。


このお偉いさん、中国語の家庭教師を探していて、あちこちに声を掛けておいたところ、とある断りにくい筋から、一人の女性を紹介されたらしい。彼女は、日本に5年ほど留学した経験があり、アルバイトで中国語教師をしたこともある、とのこと。


「yueyaさんが教科書を決めてくだされば、それを使いたいと思うので、その本を持って彼女に会ってほしい」


いくつか質問事項を用意して、彼女に会った。


Q:中国語教師経験について具体的に教えてください。
A:日本で、×人教えていました。それぞれ一対一の授業でした。レベルは、○人が初級。●人は中級でした。
Q:実際に使っていただく教科書はこれです。ちょっと見ていただけますか? それで、この教科書を使ってどのような授業ができるか、今、この場で考えてみてください。
A:(彼女は、最初の発音のページを数ページめくり)まず、ピンインを一つ一つ丁寧に教えて、途中、カンタンな単語を交えながら、ピンインの基礎を固めてもらおうと思います。
Q:なるほど。
A:そんなところですかね?
Q:じゃあ、1ヶ月勉強して、8課まで進んだとします。ここはどうやって教えますか?
A:会話の練習をします。内容は、ふだん役に立つ表現を中心にして。
Q:ふだん役に立つ表現とは、どういう表現のことですか?
A:たとえば、買い物のときとか、仕事中の専門用語とか……。
Q:それから?
A:あとは、ご本人が知りたいと思っているような表現とか。
Q:毎週2回、1回1時間半ですよ。続きますか?
A:大丈夫です。
Q:かなり準備が必要だと思いますよ。本当に大丈夫ですか?
A:あとは、日常会話レベルですから、いろいろ教えることはできますよ。


Q:本気で教えたいという気持ちはお持ちですか? 失礼ですが。
A:はい。
Q:中国人だから中国語を教えられる、というものではないことは、経験上、お分かりですよね?
A:はい。
Q:高い授業料を払うとおっしゃってるんです。1時間半、遊びの気分でなさるようなら、このお話は無かったことにしますが。
A:はあ。
Q:ご本人は、お仕事が大変忙しくて、わざわざ時間を作って、先生の授業を受けるんです。疲れている日もあれば、機嫌の良くない日もあるかもしれませんが、彼は、それを決して表に出す人ではありません。だからこそ、先生の授業が楽しくて、毎回、どんなことがあっても授業だけは受けたい、と思ってもらえるようでなければ……、先生にそれだけの自信がなければ、お引き受けするべき仕事ではないと私は思います。どうお考えになりますか?
A:努力します。でも、家が遠いので、主人と相談させてください。


逃げた! 明らかにこの瞬間、彼女は逃げた! もっと軽い気持ちで、私に会いに来たのだ。教科書を見てくださいと言ったとき、彼女は、さもくだらないものを見るようにあっさりとページをめくっただけだった。そして、最初の数ページを見ただけで、すべてを悟ったような顔をした。8課を開いて見せたときも、まったく見当違いの答えをしている。この教科書を使ってどう教えるか、という質問に、彼女は答えていない。


口先だけで優等生な返事ができる中国人がとても多い。でも実際にやらせると、からっきし甘いのだ。その典型的な教師だった。


「どうします? あなた自身にやる気はあるんですか?」
「はい」
「だったら、こうやって教えてください」


全部説明した。そして、教師が授業をキャンセルするようなことをしてはいけない、ということや、いつも準備万端で授業に臨み、相手のコンディションに合わせてペースやボリュームをその都度調整していくことなど、「お金をいただける授業」のノウハウを説明した。彼女は、少し身を乗り出してきた。しかし、
「これを週2回、継続することができますか?」
と聞くと、
「主人と相談します」
と彼女は答えた。