ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

イライラを癒すやさしい心

仕事がピークを迎えていて、同僚たちがみんなピリピリしている。もちろん私もその一人である。社内で、声を荒らげてケンカを始める者あり、電話で怒鳴りまくる者あり、会議室から出てきた途端にゴミ箱を蹴飛ばし「ちくしょう!」と腐る者あり。何しろ、社内がトゲトゲしている。


とうとう私の隣の席の中国人男性社員が、体調不良でダウンした。ストレスが原因の大変な病気になってしまい、仕事中に痛みの発作が起こる。大の男が涙をこぼす程の痛みを伴う病気で、一度痛み出すとしばらく止まらない。本当はストレスから開放された環境で、ゆっくり療養したほうが回復が速いのだが、責任あるポジションにいる彼は、それをしない。発作と闘っているときの彼を見ていると、こちらが泣きたくなるほどだ。


元々中国人というのは、相手の面子を重んじ、事を荒立てることを嫌う人たちで、彼も例外ではなく、比較的おだやかに話ができる人だ。ところが、昼夜を問わず襲ってくる発作と食事療法から来る欲求不満のダブル攻撃で、さすがの彼も近頃、ちょっとしたことでキレるようになってしまった。お客様に当たるわけにはいかないので、いきおい我々同僚にその矛先が向く。このところ連日、派手にやりあっている。今度は私の番か、と内心冷や冷やしていたのだが……。


彼の私に対する態度が、他の人に対する時と、まったく違うことに気づいた。やけに穏やかでやさしいのだ。表情も仏さまみたいで、しゃべるテンポもゆっくりしている。まるで子供が母親に話すときのような口調である。こんなに辛いときに、こんな風に私と話をしてくれるなんて、とすまないような気持ちになった。そして、彼のことをとても大事に思えてきた。何があっても、彼の力になろうと思った。どんなに自分がイライラしているときでも、彼に対してだけは、刃を向けないようにしようと、心に誓った。


今日も彼は、電話でどなりあいのケンカをしていた。電話を切ったあと、すぐに私との打ち合わせが入っていた。


「yueyaと話しているときが、一番落ち着くよ」
と彼。
「えっ?どうして?」
「う〜む……」


彼は、どうして落ち着くのか、しばらく考えたあと、こういった。
「病気のことを一番心配してくれてて、僕の仕事のカバーに入ってくれたり、言葉も表情もお母さんみたいにやさしいから」


お互い同じことを思っていたので、びっくりした。
「それは、あなたが痛みと闘いながらがんばっているからだよ」
と言ったら、
「それは違うと思う!」
と彼。


「僕が発作を起こすと、yueyaの方が僕より痛そうな顔をするでしょう? で、痛いね、痛いね、大丈夫だよ、大丈夫だよって必ず言うでしょう?あんた、僕のお母さんといっしょなんだよ。僕のこと、家族だと思ってくれてるでしょう?」
「うれしいけど、あんたって言うなよ。あんたって!」


二人で大笑いしたあと、また彼に発作が起きた。
「痛いね、痛いよね。がまんがまん、治れ、治れ!」
と彼を励ましたら、彼は痛みに顔をゆがめながら、笑顔を見せた。