知識は人生を変えるという価値観
面倒くさいタクシードライバーにつかまった。
運転手:日本人?
――― はい。
運転手:教師ですか?
――― いいえ〜(もう面倒くさくなってきた)
運転手:大学生?
――― ちがいますよ。
運転手:でも、日本の大学は出てるんだろ?
――― はい。
運転手:なに大学?
――― 日本の大学のこと、知ってんの?
運転手:ああ、知ってるよ。オレ、詳しいんだ。
――― ホントにぃ〜?
運転手:ホントだよ。どこの大学?
――― (日本語で)コーキョーダイガク(でたらめ)
運転手:何? 日本語じゃわからんよ。
――― ホァンジン ダァシュエ
運転手:知らんな。
――― 日本に大学、いくつあると思ってんのよ、運転手さん。
運転手:まあ、確かにその通りだな。
――― 一流大学卒とは限らないんだから、
お客さんにあんまりそういうこと聞かない方がいいよ。
運転手:わかってるよ。
でも、オレ、ホントに詳しいんだ。
早稲田大学だろ? 明治大学だろ? 専修大学だろ?
――― 一流ばっかりじゃん!
運転手:そうでもないだろ?
――― コーキョーダイガクも知らなかったでしょ?
詳しいなんて、言わないほうがいいよ。
運転手:いや、もっとたくさん知ってるよ。
北海道大学とか、東京大学とか、立命館大学とか……
――― (うるさいなぁ〜)
どうも、この手の中国人が多い。知っているということが、とても重要視される国だから。この価値観は、日本にはもうあまり存在していないと思う。「物知り」というのが、偉かった時代もあったが、今、そんなことを言うのはナンセンスである。ネットで瞬時にして、いろんな情報が手に入るわけだし、情報をいかに活用するかに価値基準が置かれているからだろう。
「知識は人生を変える」というのが、今も健在の中国。能書きだけタレて、何にもできない若者がとても多くて、企業も手を焼いている。
運転手:慶応大学だろ? 教立大学だろ?
――― 教立?
運転手:そう、教立大。
――― 無いよ、そんな名前の大学。
運転手:あるよ。オレ、知ってるんだよ。あるって。
――― 無い! ゼッタイ無い!
運転手:あるよ。東京にあるんだってば。有名だよ。
日本人なら知ってるはずなのに、アンタ知らないのか?
――― 知らないんじゃないよ。無いんだから。
運転手:わかった。今、友達に電話して聞いてみるよ。(携帯を取り出す運転手)
――― めんどくさいな。いいよ、電話なんかしなくて。
興味ないもの。
運転手:教立大学。違ったかな? 教立じゃなかったかな?
――― 運転手さん、教立じゃないよ。立教じゃないの?
運転手:そうだ、そうだ。立教大学だ!
な? ホントにあったろ? オレ、詳しいんだよ、ホントに。
――― (あー、もー!)
役に立たねぇな。その知識。
《豆知識》周防監督の映画「シコふんじゃった」に教立大学というのが出てきます。周防監督が立教大学の出身で、立教の相撲部をモデルにしたらしいです。確かに実在しても良さそうな、大学名ではありますね。