ひだまりの居場所

精神障害者をはじめ、生活困窮者の心に寄り添うブログです。

中国人の真っ直ぐな心

今日、公衆の面前で思い切り転びました。
あるビルから出てきたとき、客待ちのタクシーが停まっているかどうか、10メートルほど先を見て歩いていたため、小さな段差に気づかず、踏みはずしたのです。そのまま転倒。足首をイヤというほど捻って、ねんざしました。


ちょうどお昼時で、周囲は人でいっぱいでした。仕事の関係者に目撃されてはいまいか、一瞬頭をよぎりましたが、あまりの痛さにそれどころではなくなりました。なにしろ立ち上がることができないのです。


何人かの中国人が、私に歩み寄り、
「大丈夫ですか?」
と心配してくれているようでした。……ようでした、というのは、痛みがひどすぎて、頭を上げることもできなかったからです。


一人が、私の二の腕をつかみ、立ち上がらせようとしてくれましたが、とても起き上がれる状態ではなく、
「だめ!だめ!無理です」
とそのまま地べたに居座りました。


「骨折したんじゃないですか?」
「捻った?」
「病院行ったほうがいいだろう」
と皆、私を心配してくれます。


「ありがとうございます。大丈夫です。ゆっくり立ち上がりますから。ホント、すみません」
と言うと、皆、三々五々散っていきました。


中に一人だけ、私が立ち上がるのを見届けてくれた男性がありました。起き上がるときも、
「大丈夫か?ゆっくり!ゆっくり!」
と声をかけてくれました。若い男性と見え(実は顔を拝む余裕もなかった)、介助の手は差し伸べないのですが、それでもとても心配してくれているのがわかりました。


*****


私は午後の予定を変更し、とりあえず、いったん会社に戻ることにしました。会社までは、歩いてわずか10分足らずの距離なのですが、タクシーで戻る以外、すべがありません。


一部始終を見ていたタクシーの運転手が、
「だいじょうぶか?どこまで行くんだ?」
と私の腕を支えてくれます。


そして、きちっと会社の玄関に横付けするように車を停めてくれました。


*****


会社に戻ると、会計士のおばちゃん社員が、一目散に私に駆け寄り、
「シップ貼りなさい!」
と自分の机の引き出しに常備してあった貼り薬をくれました。


会議室の鍵を閉めて、一人でもたもたやっていると、おばちゃんがノックしながら、
「yueya!開けて!私が貼ってあげるから!」
と言うではありませんか。


「あら、ここ擦りむいてるわね。この上からシップを貼ると良くないから、今、絆創膏持ってくるわ」
と実に周到です。


*****


仕事の帰りに立ち寄ったレストランでは、みんなが私のバッグを持ってくれたり、階段のところでおんぶしてくれたり、とにかく至れり尽くせり。人の愛に触れた一日だったわけです。


*****


中国人が、すべてこんなに親切だとは言い切れませんが、相対的に見て、そういう人が多いのは確かです。中国の倫理思想の根底にある「徳」に通じる行為なのだと思います。お年寄りにやさしかったり、妊婦などに手を差し伸べたり、今日の私のように、目の前で困っている人がいると、必ず誰かしらが声をかけてきます。そして、自分にできることなら何でも惜しみなく提供するのです。本当に心の通った「朋友」に対してなら、私財を投げ打つこともあると聞きます。


如果有困難的話,………


私が中国に来てから、何度となく中国人の口から聞いたお決まりのフレーズ。
「もし、困ったことがあったら……」


この言葉のあとには、ほぼ100%、
「遠慮せずに私に言ってください」
という台詞が続きます。ある程度、社交辞令も含んでいるのですが、本当に困ったときに彼らを頼ると、信じられないくらい尽くしてくれます。どうお返しすればいいのか、わからないくらい、良くしてくれるのです。


右も左も分からない外国人の私が、この国で伸び伸びと生活できるのは、おそらくそういった彼らの真っ直ぐな心のおかげが、多分にあったからだと思います。


「徳」という字の旁(つくり)は、これ、「直」と「心」なんだそうですよ。